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「9歳の娘と6歳の息子、同じ叱り方をして大失敗。」採用担当が陥る「新年度の一律研修」という落とし穴

この記事の目次

子育てで痛感した「マニュアルの限界」

私ごとですが、我が家には9歳の娘と6歳の息子がいます。
愛車に家族を乗せてキャンプに出かけたり、休日に公園で遊んだりと、親として日々奮闘しているつもりですが、先日、自宅で致命的なミスをしました。

ある休日の午後。
部屋の片隅で、2人がおもちゃの取り合いで、いつもより激しめの喧嘩をしていました。
手を出しかけていたため、ここは父親として!と、ビシッと仲裁に入りました。

そして、上の娘が小さい頃にとても効果的だった「なぜいけなかったのか、理由を論理的に説明させて、納得させる」という方法で、6歳の息子を叱ったのです。

「どうしてお姉ちゃんのおもちゃを無理やり取ったの? 言葉で貸してって言えなかったかな? 順番に遊べば、みんな楽しく遊べるよね」

私は、自分の冷静で理路整然とした叱り方に密かに満足していました。
しかし、結果はどうなったか。
娘の時は「そっか、私が悪かったね。ごめんなさい」と素直に反省し、すぐに遊びに戻っていたのに対し、息子は顔を真っ赤にしてパニックになり、床にひっくり返って大泣きし、全く話を聞き入れなくなってしまったのです。

私が冷静に理屈を重ねれば重ねるほど、息子は耳を塞ぎ、暴れました。
理由は明確です。
息子の特性、すなわち「理屈の前に、まずは自分の悔しかった感情を100%受け止めてほしい」という甘えん坊で感情的なタイプであることを完全に無視して、娘の成功体験(自分の中の正解マニュアル)をそのまま押し付けてしまったからです。

「同じ親から生まれ、同じ環境で育ち、同じご飯を食べていても、人間というのはこんなにも違う生き物なのか・・・」

私はパニックになって泣き叫ぶ息子を前に深く反省すると同時に、企業の採用担当として、これと全く同じ過ちをオフィスで犯していないかとゾッとしました。
そう、春の風物詩であり、私たちが多大な労力をかけて準備している「新年度の一律研修」が頭をよぎったのです。

1.「去年の新人」と「今年の新人」は全く違う生き物である

4月になると、多くの企業で新入社員研修や、中途入社者の受け入れプログラムが一斉に始まります。
私たち人事や現場の教育担当者は、日々の忙しい通常業務の合間を縫ってカリキュラムを組みます。
そんな時、
「去年はこのやり方で上手くいったし、今年も同じスライド資料で、同じスケジュールで進めればいいかな・・」
という甘い誘惑が、つい頭をよぎります。

効率やタイパ(タイムパフォーマンス)を考えれば、それは最も正しく、合理的な選択に見えます。
毎年ゼロからマニュアルを作り直すなんて非現実的です。
しかし、ちょっと大袈裟ですが、ここに組織の未来を揺るがす大きな落とし穴があります。

それは、「去年の新人」と「今年の新人」は、全く別の生き物だということです。

ビジネスの現場だけではなく、「ゆとり世代はこう扱え」「Z世代はこうだ」と、世代という大きな主語で若者を一括りにする風潮が一般的ですが、それは血液型占いくらい大雑把で危険なカテゴライズです。
実際の現場を見渡せば、人間の特性はそれこそ千差万別です。

特攻隊長タイプどんどん前に出て、失敗しながら体で覚えていく。じっとしているのが苦手。

職人タイプ慎重にマニュアルを読み込み、全体像を把握してから石橋を叩いて渡る。

ビジョナリータイプ「なぜこの作業をするのか」という背景や社会的な意義が見えないと、全くモチベーションが上がらない。

実務家タイプ壮大なビジョンよりも、まずは目の前の手元の作業をコツコツと正確に積み上げ、小さな成功体験を得たい。

これだけ思考回路も行動特性も違う人材たちに対して、一つの「一律の研修マニュアル」を上から押し付けることは、論理的な娘に効いた叱り方を、感情的な息子に適用して大泣きさせた私の失敗とあまり変わらないのではないでしょうか。

2.「一律」が引き起こす、現場OJTの悲劇とモチベーション低下

もちろん、会社の就業規則、コンプライアンス、社内システムの基本的な使い方など、全員が共通して必ず学ぶべき「基礎知識」に関しては、一律の座学研修で全く構いません。そこを個別化する必要はありません。
問題は、その後のOJT(現場での実践教育)や、上司・先輩からのコミュニケーションの取り方です。
現場に配属された後、多くの現場の先輩たちは「自分が新人の頃にされて良かった指導法」や「自分が結果を出したやり方」を、無意識に新人に押し付けてしまいます。
名プレイヤーが必ずしも名コーチにはならない所以です。

例えば、先ほどの「職人タイプ(慎重派)」でじっくり考えたい新人に、行動力溢れる営業の先輩が「営業は習うより慣れろだ! 考える前に、とりあえずリストの端からテレアポ100件いってみよう!」という体育会系の指導をしてしまえばどうなるでしょうか。
慎重派の彼らは完全に萎縮し、「自分のやり方はここでは通用しない」「この会社は自分には合わない」と心を閉ざしてしまいます。

逆に、「特攻隊長タイプ(行動派)」の新人に、慎重な先輩が「まずはこの分厚い過去の議事録を1ヶ月間読んで、業界の歴史を完璧にインプットしてから現場に出なさい」と指示したらどうなるでしょう。
彼らは「成長実感がない」「いつまで経っても任せてもらえない」と退屈し、すぐに転職サイトを開くことになるでしょう。

「うちの会社は教育制度がしっかりしている」「カリキュラムは完璧だ」と胸を張る企業ほど、実はこの「一律の押し付け」によって、知らず知らずのうちに多様な個性を持つ優秀な人材の芽を摘み、自ら離職率を引き上げてしまっていることがあるのです。

3.キャンプに学ぶ適材適所。薪を割るか、火を育てるか

私は休日に家族でキャンプに行くのが好きなのですが、キャンプの準備というのは、まさに組織の「適材適所」を学ぶ最高のケーススタディです。

キャンプ場に着いて設営を始める時、我が家の役割分担は自然に決まります。
論理的で順序立てて物事を進めるのが好きな9歳の娘には「テントのポールを、この説明書の順番通りに組み立てて」と指示を出します。
彼女はそれをパズルのように完璧にこなします。
一方で、じっとしているのが苦手で感覚的な6歳の息子に同じことを頼んでも、途中で飽きて放り出してしまいます。
だから息子には、「森に行って、燃えやすそうな乾いた木の枝をたくさん拾ってきて!」という、すぐに動けて結果がわかりやすいミッションを与えます。

これは、どちらが優秀かという話ではありません。
テントの骨組みを作る確実な作業も、火を起こすための薪を足で稼ぐ作業も、キャンプを成功させるためにはどちらも不可欠なのです。

オフィスでも同じです。
「あいつは指示通りに動けないからダメだ」と切り捨てる前に、その人に合ったミッション(役割)を与えられているかを疑うべきです。
その人の特性に合わない斧を持たせて無理に薪を割らせるのではなく、うちわを持たせて火を育てる役割に回す。
そうした柔軟なアサインができるかどうかが、定着率を大きく左右します。

4. 必要なのは「マニュアル」ではなく「観察と対話」

では、一律の研修を脱却し、個性を活かすためにはどうすればいいのか。
答えはシンプルです。教育する側、受け入れる側が、まず「徹底的に相手を観察すること」です。

私は性格上、物事を進める前に慎重に状況を分析し、リスクを検討する癖があります。
これを新人教育に活かすなら、配属直後からの数週間は「一方的に教え込む期間」ではなく、相手の特性を掴むための「アセスメント(評価・観察)期間」に設定します。

言葉がけの反応:どんな風に褒めた時、あるいは注意した時に、一番納得した顔をするか?

失敗からの回復力:ミスをした時、一人で静かに反省したいタイプか、誰かに話を聞いてもらって早く忘れたいタイプか?

質問の傾向:質問してくる時、「結論」だけをパッと知りたいのか、それとも「なぜそうなるのか」という背景まで知りたいのか?

これらを日々の業務の中で注意深く観察し、時には1on1ミーティングなどの「対話」を通じて直接聞いて見極めます。
最近では、個人の強みを可視化する「ストレングスファインダー」のような性格診断ツールを導入する企業も増えましたが、それらも有効な観察のヒントになります。

相手の特性が見えてきたら、それに合わせて教え方やコミュニケーションの取り方をカスタマイズしていく。
メンター制度を導入している企業も多いと思いますが、「この先輩が優秀だから」と適当に組み合わせるのではなく、こうした観察に基づき、「慎重な新人には、ロジカルに教えてくれる先輩を」「行動派の新人には、背中を押してくれる熱血な先輩を」というように、相性を見極めてマッチングさせることが重要です。

5. 「トリセツ」を“一緒に”作り上げるプロセス

そして、もう一つ重要なことがあります。
それは、上司や人事が一方的に「君はこういうタイプだから、このやり方でいきなさい」と決めて押し付けるのではなく、「新人本人と一緒に考えていく」ということです。

私は、仕事において「過程も大切にしたい」「仲間と一緒に作り上げていきたい」という価値観を持っています。
教育も同じです。完成されたマニュアルをポンと与えるのではなく、「自分はどういう環境だと頑張れるのか」「どういうコミュニケーションをされると辛いのか」を、新人本人に言語化してもらい、一緒に探っていくプロセスこそが尊いのです。

「私は口頭で指示されると焦って忘れてしまうので、チャットで文字に残してもらえると安心します」
「全体像がわからないと不安になるので、作業の前に『何のための仕事か』を5分だけ教えてください」

このように、新人と先輩が対話を重ねながら、その人専用の「取扱説明書(トリセツ)」を一緒に作り上げていく。
この「私のために、私に合った働き方を一緒に考えてくれている」というプロセス自体が、新人の心に強烈な心理的安全性をもたらし、「この会社で頑張ろう」というエンゲージメント(愛着)に変わっていくのです。

手間の数だけ、関係は強くなる

「一律の研修」や「マニュアル通りの指導」は、教える側・管理する側にとっては非常にラクで効率的です。
しかし、私たちが本当に求めているのは「効率よく研修スケジュールを消化すること」ではなく、「採用したその人が、自社で自分らしく輝き、長く活躍してくれること」のはずです。

今年の春は、分厚いマニュアルをただ読み上げ、全員を同じ型にはめようとするのを、少しだけやめてみませんか。
その代わりに、目の前の新人としっかり向き合い、観察、対話をし、その人だけの「トリセツ」を、泥臭く一緒に作り上げていくような時間を持ちましょう。
タイパは悪いかもしれませんが、その手間の数だけ、組織と個人の関係は絶対に強くなります。

――さて、我が家の息子ですか?
あのパニック事件の後、妻からのアドバイスもあり、私は息子専用のトリセツを作りました。

「息子が怒ったり泣いたりした時は、理屈をこねる前に、まずは何も言わずに思い切り抱きしめる。

そして『おもちゃ取られて悔しかったね』と感情に100%共感する。
彼が落ち着いてから、短い言葉で一つだけ理由を伝える」

この面倒くさいけれど愛おしいプロセス(トリセツ)を見つけてからというもの、休日のリビングにはすっかり平穏が戻り、息子も以前より素直に話を聞いてくれるようになりました。

家族づくりも、組織づくりも、根っこは同じなのかもしれませんね。
新年度、皆さんのオフィスにも、一人ひとりの個性に合わせた温かい「トリセツ」がたくさん生まれることを願っています。

いかがでしたか。
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