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「社員に主体性がない…」その悩み、本当に“社員”だけの問題でしょうか?
「若手社員にもっと主体的に、自分で考えて動いてほしい」 「部署間の連携が悪く、自分の部署のことしか考えないセクショナリズムが蔓延している」 「会議で発言するのは、いつも同じ役員メンバーばかりだ」 「社長である自分の熱い想いが、なぜか現場まで全く届いていない気がする…」
これらの悩みは、会社を成長させようと日々奮闘されている経営者様が共通して抱える、根深く、そして尽きることのない課題ではないでしょうか。
そして、こうした状況が続くと、社員たちは次第に考えることをやめてしまいます。指示されたことはきちんとこなすけれど、それ以上のことはしない。会社の未来や目標を、決して「自分事」として捉えようとしない…。
実は、社員のエンゲージ-メント(仕事への熱意や貢献意欲)が静かに低下し、会社に籍は置きながらも心が離れてしまう「心の離職」が、あなたの会社の水面下で、静かに、しかし確実に進んでいるのかもしれません。
しかし、その根本原因は、本当に社員一人ひとりの意欲の低さや、能力の問題なのでしょうか。 もしかしたら、会社として「我々の船は、どこへ向かうのか」という進むべき方向を明確に示す“羅針盤”が、そもそも共有されていないことにあるのかもしれません。
この記事では、社員全員が同じ船を、同じ方向に向かって力強く漕ぎ出すための「会社の羅針盤」の重要性と、その具体的な作り方を解説していきます。
羅針盤のない船は、前に進めない。組織が停滞する根本原因
ここで、あなたの会社を一つの「船」として想像してみてください。
社長であるあなたは、その船の「船長」です。そして、社員は、船を動かすために不可欠な「船員」たちです。
「羅針盤のない航海」という比喩
もし、その船の船長(社長)だけが、おぼろげな目的地の場所を知っているとしたらどうでしょうか。
船員(社員)たちは、自分が今どこに向かって、何のために必死にオールを漕いでいるのか分かりません。
ただ、「漕げ」と指示されるから、目の前のオールを動かしているだけです。
これでは、船員たちの士気が上がらないのも、漕ぐ方向がバラバラになってしまうのも、当然のことです。
嵐が来れば不安になり、他の楽しそうな船が見えれば、そちらに乗り換えたくもなるでしょう。
羅針盤がない組織で、具体的に起こること
- 判断基準の欠如による「指示待ち」
日々の業務で予期せぬ問題に直面した時、何に立ち返って判断すれば良いのかという共通の基準がありません。そのため、社員は自分で判断することを恐れ、「どうすればいいですか?」と上司の指示を待つようになります。
これが、主体性の欠如の直接的な原因です。 - 部門間の断絶による「部分最適」
船全体としての目的地が共有されていないため、各部署は自分たちの部署の目標(=目先のKPI)だけを追いかけるようになります。営業部は「売上目標」、開発部は「納期遵守」、サポート部は「問い合わせ件数削減」…。
それぞれが正しいことをしているつもりでも、船全体として見ると、力が分散し、非効率な「部分最適」の罠に陥ってしまうのです。 - モチベーションの低下による「やらされ仕事」
自分の日々の仕事が、会社の大きな目標のどこに、どのように貢献しているのかが見えません。その結果、仕事は「意味のある貢献」ではなく、ただの「作業」となり、「やらされ仕事」になってしまいます。これでは、エンゲージメントが高まるはずもありません。
結論として、社員の主体性がないのは、彼らの能力や意欲の問題ではなく、進むべき道と判断の基準が会社として示されていないという「仕組み」の問題なのです。
会社の「羅針盤」を言語化する ― MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)
では、その重要な「会社の羅針盤」とは、具体的に何なのでしょうか。
それは、一般的にMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)と呼ばれる、以下の3つの要素を、自社ならではの言葉で明確に言語化したものです。これらが、組織の揺るぎない「軸」となり、全ての判断の拠り所となります。
ミッション(Mission):我々は何のために存在するのか?(社会における存在意義・使命)
解説: 会社の社会的な存在意義であり、事業を通じて社会や顧客に対して成し遂げたいと願う、究極的な「使命」です。これは、全ての企業活動の「なぜ?」に答える、最も根源的な問いであり、企業の“魂”とも言える部分です。
例(IT企業): 「地元中小企業のIT化を、伴走者として誠実に支援し、地域経済の持続的な活性化に貢献する」
ビジョン(Vision):我々はどこへ向かうのか?(未来の理想像・目的地)
解説: ミッションを果たした結果として、将来(3年後、5年後、10年後)に実現したい会社の「理想像」や、具体的な目標です。社員が「この船に乗り続けて、この景色を一緒に見たい」と心から思えるような、ワクワクする未来の目的地を示します。
例(IT企業): 「3年後、〇〇県で最も『ありがとう』と言われる、地域No.1のITパートナー企業になる」
バリュー(Value):我々は何を大切にするのか?(共通の価値観・行動指針)
解説: ミッション・ビジョンという目的地にたどり着くために、社員全員が共有し、日々の仕事の中で守るべき「価値観」や「行動指針」です。航海の途中で困難に直面した時、どちらの方向に進むべきか、判断に迷った時の拠り所となります。
例(IT企業): 「誠実であれ」「常に顧客視点で考え抜く」「失敗を恐れず挑戦する」「仲間と成功を分かち合う」
羅針盤は「共有」して初めて意味を持つ ― 社員を巻き込むプロセスが鍵
さて、ここまで読んで「なるほど、素晴らしいMVVを作ればいいのか」と思われたかもしれません。
しかし、ここで最も重要な注意点があります。
やってはいけないこと:社長室や役員室だけで作らない
どんなに素晴らしい羅針盤(MVV)も、経営陣だけで作り上げ、完成品をポスターにして壁に貼り、朝礼で読み上げるだけでは、残念ながら社員の心には届きません。
それは、以前の記事でご紹介した「壁の飾り」になってしまう典型的な失敗パターンです。
なぜ「共有プロセス」が重要なのか?
当事者意識の醸成
社員がMVVの策定プロセスに何らかの形で参加することで、それを「会社から一方的に与えられた、高尚なスローガン」ではなく、「自分たちが議論し、考え、作り上げた、未来への大切な約束事」として、深く自分事化することができます。
深い理解と納得感
完成した言葉の背景にある、様々な議論の過程や、経営者の想い、仲間たちの意見を知ることで、表面的な言葉の理解ではなく、腹の底から納得する「腹落ち感」が生まれます。この納得感こそが、日々の行動変容へと繋がるのです。
具体的な実践方法
全社ワークショップの開催
「私たちの会社の一番の強みは何か?」「5年後、お客様からどんな会社だと言われたいか?」といったテーマで、部署や役職の垣根を越えて、全社員で対話し、意見を出し合う場を設けます。
プロジェクトチームの発足
各部署から数名ずつメンバーを選出し、MVV策定のプロジェクトチームを作ります。彼らが中心となって、ワークショップの意見を集約し、MVVの草案を作成していくプロセスは、次世代リーダーの育成にも繋がります。
日々の業務との接続
最も重要なのが、完成したMVVを「絵に描いた餅」で終わらせない仕組み作りです。新しい人事評価の基準にバリューを体現する行動項目を入れたり、日々の朝礼でバリューに関するエピソードを共有したり、会議での意思決定の際に「これは、私たちのビジョン達成に繋がるか?」と問いかけたりするなど、具体的な業務シーンに組み込んでいくことが不可欠です。
ベクトルが揃えば、会社の推進力は劇的に変わる
この、『会社の羅針盤となる価値観を定め、社員全員で共有し、日々の業務にまで浸透させるプロセス』こそが、強い組織を作るための「インターナル・ブランディング(社内向けブランディング)」と呼ばれる、極めて重要な経営戦略です。
この羅針盤が全社員に共有された時、組織には劇的な変化が訪れます。
社員一人ひとりが、会社の進むべき方向を理解し、日々の業務の意味を確信し、自律的に動き始める。部署間の壁は低くなり、船全体としての目標達成に向けたスムーズな連携が生まれる。そして何より、社長であるあなたの想いが、スローガンとしてではなく、日々の社員の具体的な行動の中に、確かに息づき始めるのです。
全員のベクトルが、未来という一点に向かって揃った時、貴社の船は、今とは比べ物にならないほどの圧倒的な推進力で、理想の目的地へと進み始めるでしょう。
もし、貴社が組織の停滞感に悩み、社員一人ひとりが持つ本来の力を最大限に引き出したいと本気でお考えなら、ぜひ一度、私たち株式会社DIANTにご相談ください。
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